クー様より、素敵なSSを又頂戴しました。
今回のテーマは、「恐怖への克服と強さとは」だそうです。
内容はソフトBLなものです。
この度は、イメージイラストを描いてみました。

クー様ありがとうございました。  m(_ _)m


よく晴れたいい天気だったな。俺が本を読んでいると、目の前にボールが転がっていった。

ソフトボールだろうか。拾うと思って手を伸ばそうとしたら、ユニフォーム姿の子供が走って追いかけていった。

玉拾いだろうか。少年はボールを捕まえると、一生懸命走っていった。俺は、その後姿をじっと見詰めていた。

…俺は、その場から立ち去ることにした。

そうだ。それで、次に俺はどこかの建物に入ったんだ。博物館みたいな、高級そうなところだ。

全体的に青で統一され、壁が白い。床も青く、いるだけで意識が飛ぶような不思議な感覚がする。

周りは、皆大人だった。黒いスーツやドレスというのだろうか?皆、ぱりっとした格好をしていた。

それに対して俺は、黒のジーンズに黒のTシャツ、さらに黒の長袖の羽織物と、明らかにカジュアルだ。

今思えば、よくあんなところにはいる勇気があったものだ。

俺は、建物の異様な雰囲気に飲まれ、ふらふらと歩いていたんだ。そう、そして、人気のない通路に出たんだ。

いつの間に出たのか、俺は、一人で通路を歩いていた。そこで、急にはっとした。

「俺…どうしてこんなところにいるんだ…?」

自問自答した俺は、外に出ることにした。きっと、ここの空気にやられたんだろう。そう思うと踵を返して歩き始めた。



しばらくして俺は少しあせっていた。

おかしい。どこまで歩いたのかわからないくらい歩いたが、一向に出口が見つからない。延々と一本道のままである。

「…道を間違えた?」

そういって、少し余所見をしたその時―――!

ドグッ!

「…!ぐ…!」

不可解な音とともに、みぞおちに衝撃が走った。

よろけながら目を開くと、いつの間にそこにいたのか、俺と同い年くらいの男が立っていた。

背格好や年は俺ぐらいだろうか。髪を少し伸ばしているのか、目のところが隠れて見えない。

俺は、そこに何かしらの恐怖を覚えた。

「お前っ、誰だ!」

自分を鼓舞するかのように、声を張り上げる。しかし、男は、にやりと笑うと続けてパンチを放ってきた。

「く…!」

仕方なく、俺はファイティングポーズをとり、よけようとした。が、しかし。

「…っ!?」

体が思うように動かない。やばいと思った瞬間、パンッ!と音がして、相手のジャブをもらってしまう。

俺は、そのまま、防戦一方になってしまった。

俺を襲ってきた男は、奇襲されたのを除いたとしても強かった。

さらに、こちらは足が鈍い。相手は有利と見るや否や、果敢に攻めてきた。

ジャブ、ストレート、フック、ボディ。ボクシングのスタイルだ。あらゆるパンチが俺に打ち込まれた。

俺は何とかしようと必死にガードを固める。が、防ごうとすれば防ごうとするほど、いっそう激しい攻撃が待っていた。

そして、左のストレートを防いだ瞬間、ガードが崩れてしまった。

そして、右ボディーが俺のガードの隙間を縫って叩き込まれた。

「…!」

強烈な衝撃に思わずガードが甘くなり――

がすっ!

きれいにアッパーカットを決められてしまった。俺は耐え切れず、仰向けにダウンしてしまった。

「……う…した………てい…なの…か……」

男は俺に対して、何かしゃべりだした。だけど、俺はそれどころではなかった。

男に滅多打ちされ、意識がほとんど飛びかけていた。

「………ち………………!……は…ば………!」

男は再び何かを言うと、俺に近寄ってきた。

そして、右手で俺の襟首をつかみ、軽々と目線まで俺の顔を持ってきた。

俺は、左手に皮の首輪があるのを見た。

その後は、想像通りだった。

男は特別製の首輪――小さな棘が内側についている、普通でない首輪――を器用に俺の首と、両手につけ、俺を地面にたたきつけた。

俺は、もう男を見るために顔をあげることすらできなかった。

首の棘の痛みを感じる。男の足音が大きくなってくる。

だが、もう、いい。好きなようにすればいい。

ただ、何か傷つけられ、ただ、何か絶望を覚え、そして、少しの安堵感を感じ、俺は意識が遠くなった。



気がつくと、ベッドの上だった。周りを見回してみる。

見慣れたカーテン、見慣れた机、見慣れた時計。そこは、確かに俺の部屋だった。

時間は、午前3時。あたりは暗く、静かだ。

俺は、何があったのかよくわからないまま、鏡を見た。

俺は、泣いていた。泣くなんて何年ぶりなんだろう。と、不意に誰かが扉を開けてきた。

「大丈夫か、亜輝斗?」

兄貴が心配して、見に来てくれたらしい。…そんなにやばそうな状態だったんだろうか。

「え、うん…」

「すごくうなされていたぞ。」

「そう、なんだ…」

「顔も真っ青だぞ?」

「………」

「…何かあったのか?一緒にいてやろうか?」

「え、あ、大丈夫だよ。うん、大丈夫。だから、いいよ。」

「………そうか。わかった。俺も部屋に戻るよ。だけど、何かあったらちゃんと話せよ。」

「わかったよ。」

「そうか。じゃ、おやすみ。」

「うん、おやすみ。」

そういって、兄貴は部屋に戻ってしまった。俺は、自分のセリフに少し後悔した。



その後、俺は学校にいった。気分が優れないので休みたかったが、兄貴に心配されそうなのが気になり、無理していくことにした。

しかし、どうしても気分が重い。屋上に逃げ込むように駆け上がった。

「夢、か…」

誰に話すわけでもなく、一人呟く。

あれは、夢だったのだろう。今思い出しても震えてしまうほどの夢。死と直面した人間は、あんな感じを思うのだろうか。

 ……ーい、…き……

あんな夢を見るなんて、どうしんだろうか。いや、理由なんてわかってる。

 ……と……ない………よ…

俺は、あのときに―――

「くぉら!」

ゴスッ!

誰かが思い切り俺の後頭部をどついた。

「!って!………なんだ、光騎か…」

「無愛想だな〜。人が心配してきてるのに〜。」

光騎はややふてくされると、俺の隣に立つと、俺に向かってしゃべりだす。

「先輩から話し、聞いたよ?」

「え?」

「『昨晩うなされていて苦しそうだった。あいつ、俺に気を使ってるところがあるから、

光騎が様子を見てやってくれ。きっとあのことが原因だ』だって。」

俺は思わず赤面してしまった。隠していたつもりがばればれじゃないか…しかも、確信までつかれて…

「だからさ、昨晩、何があったか話して?」

「………」

「亜輝斗は、うじうじ君だな〜?ったく、らしくもない…俺に話して。じゃなきゃ俺が話させる。」

俺は、少し戸惑った。そのとたん、他の人が入ってきた。

「………わかった。だけど人前で話すのは嫌だから、今日の晩、山奥の小屋で。時間は…10時。ジムが終わってからで」

「そっか。亜輝斗、ジムに来るの禁止されてたもんな。わかった。ジムが終わったら、すぐに行くよ」

「ありがとう。」

「おいおい、亜輝斗が俺に『ありがとう』か〜。重症だな〜。…じゃ、待ってるからな。」

そういうと、光騎は屋上から出て行った。

重症、ね…

…後は、俺が覚悟を決めるだけである。



その晩、俺はこっそりと家を出た。俺の家の近くには、使われてない小屋というよりも家があった。

何でも昔、住んでいた人がいたらしいが、その人が失踪したらしい。

その後、誰にも使われることなく、人々に記憶から消されていった。

俺と兄貴が小さいころ、遊びに行ったときにたまたま発見したのだ。

その時、玄関の鍵なども全部残っていたため、そのまま秘密基地と化してしまったのだ。

今、この小屋を知っているのは俺と兄貴と、光騎だけだろう。

俺は早めに家を出、予定より早く小屋の出入り口の鍵を開けることになった。

しばらく入っていなかったが、洋館風の部屋はきれいだった。

俺は、一番大きな部屋の中で光騎を待つことにした。

俺はベッドに座りながらいろいろと考えていた。


夢のこと。

ジムへしばらく来るなと言われたこと。

兄貴が俺を心配してくれたこと。

光騎が俺の話を聞いてくれること。


…俺が本当に怖がっているのは何だったんだろう。



ガチャ。

そんなとき、光騎が部屋に入ってきた。

「やっぱりここにいたか。」

そういうと、光輝は大きな椅子に座った。額に汗が出ている。ジム帰りもあったのだが、きっと急いでくれたんだろう。

それゆえに、何か悪い気がした。

「さ、何があったか話して。」

半分脅すような口調で、光輝は俺に向かって言った。

「………実は…」

光騎は黙って俺の話を聞いている。

「この前のスパーリングのときからかな。なんか、おかしいんだ…」

「…やっぱそれか。」

光騎は半ば予想していたらしく、目を瞑りながら考え事をした。



今から一週間ほど前、他のジムの有名選手が、うちのジムにスパーリングに来ていた。

その時、選手と一緒にいた中学生の男がいた。

俺は、そいつとスパーリングをやらせてもらうことになった。

とはいっても、顔合わせ程度の試合らしく、2ラウンドのヘッドギアなしといった簡単なものだった。

俺は相手を見た。程よく筋肉が乗った体。鋭い目つき。いかにも強そうな相手だった。

だけど、俺は負けるつもりはさらさらなかった。俺は、準備を終えると、リングに上がった。

少しして、相手もリングに上がった。俺たちはお互いににらみ合い、戦いに備えた。

 カァン!

そして、ゴングが響く。と同時に、相手のストレートが俺の顔めがけて飛んできた。

パァン!と音がした。一瞬、何が起こったのかわからなかった。

よける間もないほどの鋭いパンチが、俺の顔面に刺さったのだった。

俺が戸惑ったその隙に、相手はガンガン攻めてきた。俺は浮き足立ってしまった。

「亜輝斗!守りに入るな!攻めろ!」

(わかってる!)

俺は兄貴の声に答えようと、パンチを出そうとした。だけど。だけど、俺は攻めることができなかった。

手を出そうと、拳を体から放そうとすることに違和感を覚えた。

心臓が高鳴るのがわかる。俺は必死に耐えるしかなかった。

 カァン!

ゴングが鳴って、1ラウンドが終わった。コーナーに戻ってきた俺に、興奮した光騎が声をかける。

「亜輝斗!何やってるんだよ!もっと手を出して!」

「う…うん……」

「亜輝斗。」

声を震わせる俺に、兄貴が声をかけた。

「深呼吸しろ。落ち着くんだ。よく見ろ。」

「わかった…」

兄貴がそういったとたん、第2ラウンドが始まる。

足が震えているのが自分でもわかった。俺は必死にそれをこらえた。



第2ラウンド。相手はスタートから飛ばしてきた。

違和感は、まだ続いていた。俺は、また防戦一方になってしまった。

パン!パン!と相手のパンチが俺の腕を叩く。

「くっ…」

手を出さなきゃ。そう思って、俺は無理やりパンチを出した瞬間、相手の顔を見た。

こちらを睨み付ける鋭い目。歯を噛み締めてはった唇。そして、その気迫。

俺は息を呑んだ、その瞬間、俺は体がさらに重くなったように感じた。

スウェーを避け損ねた俺を相手のパンチが捕らえる。

そして、そのままなし崩しに左のストレートでガードが崩れてしまった。

そして、右ボディーが俺のガードの隙間を縫って叩き込まれた。

「…!」

強烈な衝撃にさらにガードが甘くなり――

ガスッ!

きれいにアッパーカットを決められてしまった。

俺は耐え切れず、仰向けにダウンしてしまった。そして、そのまま気を失ってしまった。



気づいたら、ジムのベッドの上だった。兄貴たちが心配そうに俺の顔を見ている。

「大丈夫か?亜輝斗…」

大丈夫。そう答えようとしたが、声がうまく出なかった。だから、俺は起き上がろうとした。

「起き上がるな。そのまま寝てろ。」

寝たままの俺に、先輩がそういう。

「亜輝斗。」

そして、ジムのコーチが俺に言った。

「明日から3日間、ジムへ来るな。」

「…!」

俺にとって、それは衝撃的なことだった。

「相手はお前よりかなり格上だ。それは、わかるな。」

俺は、放心しながら聞く。

「だから、少し頭を冷やせ。今日の試合のダメージは、肉体的にも精神的にもひどい。

 だから、しばらく休め。もし、来るようなことがあればお前を破門にする。」

そんな、と思った。俺はできるから、ジムに行かせてくれ。そう言いたかった。

だが、恥ずかしい話、声が出せないほど、俺はダメージを受けていた。

「わかったら、今日はもう悠摩達と帰れ。 悠摩!光騎!亜輝斗を頼むぞ!」

そういうと、コーチたちは部屋を出て行った。ベッドの周りには、俺たち3人だけが残った。

「亜輝斗。今日は帰ろう。光騎、手伝ってくれ。」

そういうと兄貴は俺をおぶって、歩き出した。その隣を光騎が心配そうに歩いていた。

(情けないよな、俺…)

そう思い、兄貴の背中で揺られながら俺は帰路についた。そして、そのまま眠ってしまったのである…



それからというもの、俺は鬱な日々をすごしていた。

そして、あの夢を見た。そのことを俺は、光騎に伝えた。

「…だよなぁ。すげぇ負けっぷりだったもんなぁ。」

そういうと、光騎は椅子から立ち上がり、俺に近づいてきた。

「………」

「否定しないんだ?」

「事実だし、実際強いと思ったし………」

「ふぅん、あいつにびびってるんだ。」

「び、びびってなんかない!」

「じゃあ、何にびびってるんだよ。」

「なんにもびびってない!」

「嘘つき。」

そういったとたん、光騎は俺の唇に自分の唇を重ねてきた。



「……!光騎!お前!」

「何、嫌なの?キス?」

「そうじゃなくて!俺たち!…その…お、お、お、男だろうが!」

「だから?」

光騎はいけしゃあしゃあと言う。

「別にいいじゃねぇか。それに、俺、知ってるんだぜ?お前が男好きだっての。

 そもそもお前、悠摩先輩のこと好きだろ?兄弟なのになぁ〜」

「な、兄貴は、その、別に…」

「ふ〜ん、男好きってのは否定しなかったな。」

「いや、あ、それは!」

「いいじゃねぇか。否定しなくてもさ。じゃ、もう一回キスするぞ。」

「な、なんでだよ!」

「素直になれないやつには、ある程度矯正が必要だし。」

「な、だからって!」

「じゃ、やめる?お前が許しても、お前の体が許すかなぁ〜」

「う〜………」

俺は顔が赤くなった。俺の下半身は、さっきのキスで色々と反応していた。

しかし。しかしである。兄貴以外の相手にキスをさせるつもりもなかった。

ましてや光騎…ライバルみたいなもんである。俺がするならともかく、やられるのは…

そう思ってぐずっている俺に、光騎があることを言う。

「あ、そういえば話違うけどさ、亜輝斗。お前、今日、英語の授業ふけただろ?先生、怒ってたぜ?明日職員室へ来いってさ。」

「へ!?俺、授業なんかふけてな…!」

そういって俺が口を開いた瞬間、光騎が無理やり俺にキスをしてきた。



光騎は、俺と唇を重ねると、舌を入れてきた。光騎の舌は俺の口の中を刺激する。

「…はぁ!…はぁ……はぁ…」

舌が動くたびに、俺は快感に襲われた。

「気持ち、いいだろ?」

光騎がキスをやめた。しかし、わずかなキスの間で、俺の体はキスが欲しくてたまらなくなっていた。

「あ…」

「っと、気持ちよすぎた?」

「…う…」

認めることを戸惑い、俺が返答に困ると光騎がじっと俺の顔を見つめる。

「こういう亜輝斗も、かわいいな。」

そういうと、光騎は、先程と同じように、唇をずらしながら、舌で口の中を犯した。俺はその快感におぼれた。

光騎のキスはうまかった。俺は、何度も息を漏らし、顔が紅潮しているのを感じた。

光騎はいつの間にこんなテクを身に着けたのだろう。

微妙に唇をずらし、刺激を与えたと思えば、口の中で舌が俺の口を攻撃する。

…もう、俺は、光騎のキスにとりこになっていた。





あの後、光騎の愛撫はじんわりと俺を絶頂へと追い立てた。

唇に始まり、耳、胸、と俺を愛撫した。

そして、全てを攻めきったのか、光騎の口はついに俺のものを銜えた。

「こ、光騎…!」

思わず、俺は声を上げた。

「亜輝斗、もう我慢しないでいいからさ、気持ちよくなっちゃいなよ。」

気楽に言う。

「で、でも…」

俺は、男でしかも、友達である光騎であることに戸惑う。

「じらすなよ。男同士でも気持ちいいんだから。実際、わかるだろ?」

そう、気持ちはわかっていた。

「…う…」

体が、光騎を欲しがっていることを

「素直になれよ。」



――――そういうと、光騎は俺のものをやんわりと口で包んだ。そして、その快感に耐えられず、俺は光騎の中に流した。

    光騎はそれを苦もなく飲み込んだ。俺は、肩で息をしていた。



「気持ち、よかった?」

「……はぁ…はぁ……」

あまりの快感に、俺は体の力が抜けてしまった。

「………亜輝斗?おい、亜輝斗!」

そして、俺は絶頂のまま眠ってしまった。



「落ち着いたか?」

あれからしばらくして、俺は目を覚ました。

「うん…だいぶ…」

「驚いたぜ?いきなり倒れたからさ。で、その後すぐに寝ちゃって。」

「わ、わりぃ…」

「別に責めるつもりはないよ」

「そうか。」

そういうと、光騎はにんまりと笑いながら俺のほうを向いた。

「気持ち、よかっただろ?」

「ああ…」

俺は、そういうとすっと話を切り出した。

「あの試合のとき、死ぬかと思った。強いって言うのが、あんなに怖いもんだと思わなかった。」

「………そっか。」

「俺、それ言うのが恥ずかしくって、ずっと、その…」

「ははは、言うなって。俺だって亜輝斗と同じ立場だったら迷っただろうし、さ」

「だから、俺、さ。もっと強くなろうと思う。」

「強く、か…強いってなんだろうな…」

「わからない。だけど、腕っ節だけじゃなくて、もっと色々と強くなりたい。」

「そっか。その答えが出せればオッケーさ」

「というわけで、手始めに。光騎、お前から倒すからな。ボクシングも、他のことも、な。」

俺がそう宣言すると、光騎は急にむっとしたように俺に言う。

「へぇぇ。たいした度胸じゃない。前のスパーリングは引き分けだったし?

さっきは俺のキスにメロメロだったくせに?それで、俺に勝つ、と。」

光騎は声を少し震わせなが言う。

「あれは初めてだったからだ。不意打ちもあったしな。次は、俺がお前をヤる。俺をヤれるのは兄貴だけなんだからな。」

俺がそういうと、お互いに火花を散らした。

俺たちの間に、先程の雰囲気はもうなかった。だけど、その雰囲気は嫌いなものじゃなかった。


その晩、俺は夢を見た。

暗い道。白い壁。青い絨毯。前、夢で来た建物だと気づくには、少し時間がかかった。

俺は、一人で廊下を歩いていった。そして、あの男に会った。

「先日はどうも。」

「………」

「お前のパンチ、かなり効いたんだぜ?」

「………」

「で、今日も俺とやんのか?」

「………」

「言っとくが、俺はもう負けないぜ?」

「………」

「光騎に勝つと宣言した手前、お前なんかに二度も負けるつもりはないからな」

「………」

「…お前がかかってこないなら、俺から行くぜ?」

「その必要はない。」

「…なんで?」

「お前はわかっているはずだ。」

「………」

「もう会わないことを願う。」

そういうと、男は静かに消え去っていった。

「ああ…そうだな……」

俺は、心の中で礼を言う。今だからこそ、わかる。あの男は…

俺は目を開ける。今日は一段とすがすがしく感じた。


【終】